東京にあった

さいごに田舎のおばあちゃんの家にいったのはいつだったっけ

 

もうすぐ子どもたちは夏休みに入るころ ふと思った

大学に通うために 実家から東京に引っ越して そのまま東京の会社で働き出して三年になる

 

子どものころ 夏休みになると毎年 父の実家がある姫路に家族で行くのが恒例行事だった

 

 

お箸の持ちかたをガミガミいってくるおばあちゃん

お酒を飲みすぎて なんどもなんども同じはなしをするおじいちゃん

いつもと違うコトバ遣いで いつもと違っておおきな声で笑うおとうさん

でんわで話しをしてるみたいな声で 遠慮がちにしているお母さん

みんなのはなしは聞いてなくて 野球のはなしばっかりしているおじさんたち

 

わたしは いとこたちと縁側でいとこたちとスイカを食べたり 子どもだけでお風呂に入ったり いつもより夜ふかししてゲームができるのが楽しみだった

はしゃぎすぎて いつもコワいおばさんにおおきな声で叱られたな

 

そんなことを思い出しながら なぜかいつもと違う くらい道をとおって家に帰っていた

 

あれ おばあちゃんちの匂い

ふと みた先には くらい道のさきに一軒だけ明るく輝くのれんがみえた

 

こんなところにお風呂屋さんがあったんだ

 

匂いにさそわれたわたしは よりみちして銭湯に入ってみることにした

 

おばあちゃんちの匂いの犯人は 蚊取り線香のかおりか

番台でタオルと石けんを借りて入ったそこには

 

元気いっぱいに はしゃぎ回る子どもたち

それをおおきな声で叱るお母さん

 

あ おばあちゃんちなのは匂いだけじゃない

 

すっかり子どものころのキモチがよみがえったわたしは いつもより長くおふろに入って 少しノボせてしまった

 

お風呂からあがって 扇風機の風に当たっていると カベの向こうからガヤガヤと野球のはなしが聞こえてくる

 

やっぱりここは田舎のおばあちゃんちだ

 

ノボせがやっとよくなったわたしは 外にでた

心地の良い風がわたしを包んでくれる

夜空を見上げると けっこうたくさんの星が光っていた

 

「おーい もうビールがあらへんどー もってこんかいやぁ」

 

すっかり方言に戻っている 父の声が聞こえたような気がした